2022.10.12

その他

セーヌ河岸から日本文化を発信、
パリ日本文化会館へようこそ

1997年に開館して25年、パリの文化シーンに存在感を示すパリ日本文化会館。国際交流基金の海外拠点の中でもフラッグシップ的な施設です。日仏の心を結ぶ同館のあゆみをたどります。

19世紀後半に日本ブーム(ジャポニスム)が起こった、日本との文化交流の長い歴史を持つフランス。国際交流基金(JF)は1975年にパリ事務所を開設していましたが、1982年にミッテラン仏大統領(当時)が日本を訪れたことをきっかけに、日仏両国首脳主導による「フランスに日本文化を紹介する場を設立する」ことを目的とした日仏協力・官民共同のプロジェクトが発足。1997年には、日本文化の発信拠点として世界最大規模となる、パリ日本文化会館が完成しました。その官民協同での同館運営には、「パリ日本文化会館・日本友の会」会員企業の協力が大きな役割を果たしています。

大ホールや茶室も完備、「ジャポニスム2018」でも活躍

パリ日本文化会館はエッフェル塔にほど近い、セーヌ左岸に位置します。弧を描いたガラス張りの外観が特徴的な建物です。地上6階、地下5階の全11フロアからなり、内部には300名を収容できる大ホールや小ホール、図書館に茶室、さらには約450㎡の展示ホールも設けられています。

同館ではこれまでに展覧会や映画上映会、舞台芸術やコンサート、講演会、日本語講座を含むさまざまな教室やワークショップ事業などが行われてきました。フランス国立東洋言語文化学院(INALCO)のミカエル・リュケン教授は、こう語ります。「フランスのアート界や学術界で、パリ日本文化会館の存在を知らない人にはほとんど会ったことがありません。初期には1998年の『縄文』展や2001年の『草間彌生』展といった心に残る展示事業がありました。最近では明治時代の浮世絵を通して変化する日本社会や子どもたちの姿を紹介する『文明開化の子どもたち』展が開催され、新しい展示の方向性が見えてきました」

町田市立国際版画美術館

2022年3月から5月にかけて、町田市立国際版画美術館との共催で行われた「文明開化の子どもたち」展。明治期の子ども浮世絵を中心に、約140点の資料や作品を通じ、文明開化により変化する日本社会の様子とその中で学び遊んだ子どもたちの姿を紹介しました。Photo©Grégoire Cheneau

2018年から2019年にかけては、日本文化・芸術の祭典「ジャポニスム2018:響きあう魂」がパリを中心として開催されました。会期中にはパリ日本文化会館でも多くの関連事業を実施しました。「地方の魅力祭りと文化」での地方文化の紹介、現代演劇『書を捨てよ町へ出よう』(藤田貴大・演出)や「日本の障碍者による舞台芸術の発信/瑞宝太鼓」の公演、そして池坊、一葉式いけ花、小原流、草月流、未生流の5流派が一堂に会した「いけばな」展などです。

中でも「藤田嗣治:生涯の作品(1886 – 1968)」展は、エコール・ド・パリを代表する画家の、海外初公開の作品も展示されたこともあって特に人気で、一時は入場制限を行うほどの大盛況に。来場者からは「日本のことをもっと知りたい」「日本についてのイベントをもっと、いつでも、フランスでやってほしい」などの声が寄せられました。

コロナ禍を超えて、俳句や「寅さん」でつながる

一方、近年のコロナ禍は会館の活動にも大きな影を落としました。そんな中、「人と人が触れ合えないこんな状況下だからこそ、『俳句』を通じて思いを分かちあい、励ましあおう」と企画されたのが、「日仏交流俳句コンクール『離れていても』」です。20208月から10月にかけ、日本語とフランス語の俳句をオンラインで募集。世界中から届けられた作品は全1696句に上り、オンライン投票と、審査員による選考を行い、受賞作品をオンラインで発表しました。俳句はフランスで「Haïku(アイク)」と呼ばれ、学校の授業にも採用されるほど浸透しています。受賞作の中にはフランスの公立小学校で授業の一環として詠まれた作品もありました。

20221月には、日本を代表する映画シリーズ、『男はつらいよ』全50作品を1年間連続で上映する「Un an avec Tora san(寅さんとの1年)」が始まりました。フランスではこれまでほぼ上映される機会のなかった「寅さん」作品ですが、高度経済成長期から1990年代までの日本全国各地を舞台に、日本らしい「人情」を描いている点が評判を呼び、上映日には200人を超す観客が集うことも。来場者アンケートには「日本の庶民の人情に触れられてよかった」「コロナ禍の中、人のふれあいの温かさやユーモアが心に沁みる」という感想が寄せられました。

2021年11月に開催された、「Un an avec Tora san」上映企画のプレイベントの模様。『男はつらいよ』(第1作)および『男はつらいよ 望郷篇』(第5作)の先行上映と、クロード・ルブラン氏による講演会を開催しました。ルブラン氏は『山田洋次が見た日本』(原題『Le Japon vu par Yamada Yôji』、2021年)などの著書があり、日本映画に造詣の深い「ロピニオン」紙のアジア地域担当記者兼『ズーム・ジャポン』誌の創刊編集長です。Photo:©澤田博之 ©松竹

パリ日本文化会館は、2022年で開館25周年。このほど、同館では「中期ビジョン20222026」を定めました。①SDGsに代表される、世界が直面する課題の克服に貢献すること、②日本ブランドに磨きをかけること、③フランスで開催されるラグビーワールドカップやパリオリンピック/パラリンピックなどの追い風を活かして世界への「日本の窓」となること、④発信の地平を拡大すること、⑤会館についてもっと良く知ってもらうこと、の5つを活動の軸に据えるというものです。

 2021年に着任した鈴木仁館長は、今後の抱負をこう述べます。「新型コロナウイルスやウクライナ情勢等世界が大きな変革期を迎える中、パリ日本文化会館は文化の持つ力によって人と人を結び付けるとともに、喜びと希望を与えていきたいと考えています。多彩な文化事業を通じて日本の社会や文化の特質を伝えることで、世界規模の課題を解決する糸口を提供し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指すとともに、日仏双方の様々な価値観を持つ人たちが集い、議論を交わすことのできる『場』としての役割もはたしていきたいと考えます」

リュケン教授からは、次のようなエールをいただきました。「パリ日本文化会館の事業をいつも楽しみにしています。会館の図書館で日本研究者や学生にも会えることも楽しみです。一般的に、文化というものは『物体』ではないので、会館は『ショーケース』であることはできません。また人々の心を打つプロジェクトのためには、人々の期待を汲み取る必要があります。今、フランス人はみんな日本を知っていても、みんなが同じ日本を知っているわけではありません。現代文学、または武道の実践、あるいはアニメ、仏教、現代美術、料理と、人々はさまざまなフィルターを通して日本を見ています。会館は、これらの分野をより充実させるとともに、こうした分野の日仏の人々の交流をより盛んにできればよいのではないでしょうか」

ミカエル・リュケン(Michael Lucken)氏。フランス国立東洋言語文化学院(INALCO)教授。2002年、著書『L’art du Japon au vingtième siècle』(邦訳『20世紀の日本美術』)で第19回渋沢・クローデル賞を受賞しています。Photo:© Francesca Mantovani pour les Editions Gallimard

2022年2月に地上階ホールで開催された「永遠に愛するパリへ «Paris je t’aime! pour l’éternité…»」展の模様。かつてジャック・シラク仏大統領に「日本の画家の中で最もパリジャンらしい画家」と呼ばれた、赤木曠児郎の没後1年を機に開催されたオマージュ展です。

 

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