2022.11.17
言語日本語教育機関を
ネットワークでつなぎ、
さくらの花を世界中に咲かせる
世界で日本語を教えている中核的な教育機関をつなぐ「JFにほんごネットワーク」。またの名を「さくらネットワーク」と呼ぶこの事業は、初・中・高等教育の別や国境も超えた連帯を生んでいます。
国際交流基金(JF)では海外の日本語教育機関と緊密に連携し、日本語教育の質を高め、より多くの人に日本語学習の場を提供することを目指しています。2007年度から進めている「JFにほんごネットワーク(通称・さくらネットワーク)」の構築はその一環です。
2022年3月末現在、加盟しているのは世界102か国・地域の357機関。各国・地域における日本語教育の発展を図るためには、現地の教育機関への支援は欠かせません。ネットワークで結ばれることにより、日本語専門家が派遣されていない地域にも、同じ国内や近隣国の機関などからサポートを受ける機会が生まれます。
さくらネットワークに加盟するには、しっかりした組織基盤があることや、十分な活動実績などが認定条件となります。加えて、日本語教育の輪を広げられるような地域社会への影響力を備えているかも問われます。認定されれば、教材の作成をはじめとする諸活動への助成という形でJFの支援が行われます。
カンボジア――日本文化の普及キャラバンで地方を回る
2007年に、さくらネットワークに加盟したのがカンボジアの王立プノンペン大学です。同大学で日本語学科の立ち上げに尽力したのは、外国語学部のロイ・レスミー副学部長。レスミー先生は最初は独学で、同大学に進学後は、青年海外協力隊員から単位取得のない課外の日本語コースを履修する形で日本語を習得し、卒業後に同大学の職員となりました。先生はその後、教授法なども学んで日本語教師となりましたが、その時に開講していた課外のコースでは、日本語を学ぶ学生はなかなか増えませんでした。
そこで先生は日本語学科の創設を学長に直談判し、その結果、2003年に同大学には日本語学科が創設され、2年後には本格的な授業がスタート。2005年には85人の3クラスだったのが、現在では650人の24クラスになりました。「卒業生にはカンボジア外務省に就職し、駐日カンボジア大使館へ赴任した人もいます」と、レスミー先生は話します。
さくらネットワークへの加盟は、同大学に大きなメリットをもたらしました。さくらネットワークの事業として、2020年2月には同大学の主催で「さくら日本語・日本文化普及キャラバン」を実施(在カンボジア日本大使館が共催)。同大学の卒業生を含む社会人、在留邦人などがチームを組んで地方を回り、日本語を教えたり日本文化を紹介したりしました。その意義を、レスミー先生はこう語ります。「高校生以下の世代は、キャラバンでやってきた同大学の卒業生の話を聞くことで、将来、日本語を勉強したら留学もできるんだ、就職もできるんだという未来が描けるようになるのです。日本語教育機関のない地方の若い世代とつながれたことは大きいです」
イギリス――「世界市民」を育てるため日本語も選択肢に
一方、2016年に中等教育機関としてさくらネットワークに加盟したのが、イギリスにあるダートフォード・グラマースクール。創立は1576年。地域の優秀な生徒が集まる学校です。同校の特徴は、「世界市民」の育成をミッションに掲げ、言語教育に力を入れている点です。世界共通の大学入学資格および成績証明書を与えるプログラム「IB(International Baccalaureate)」の理念に基づいてカリキュラムを提供している学校でもあります。IBには母語話者/非母語話者向けの日本語の試験が含まれます。
同校が日本語教育を始めたのは1995年のこと。中等教育修了一般資格である「GCSE(General Certificate of Secondary Education)」を得るための試験を、ふたつの外国語(日本語か中国語、そして仏・独・西・ラテン語のどれか)で受けることを課しており、その理由を、同校で日本語教育を担当するケイティ・シンプソン先生はこう話します。「当校の理念に根付くのは、コミュニケーションの力と異文化への敬意です。平和な世界をつくる国際市民となるには、多様性をもつことが大事。ですから言語教育を重視しますし、複雑な意味をもつ漢字や、日本語の論理的な文法構造を学ぶことは、生徒にとってためになります」
日本語の授業は7年生(12歳)から13年生(18歳)まで続き、授業は週3回あります。9月の7年生新学年時点で日本語か中国語のクラスに学校側で生徒を振り分け、その年のクリスマスまでには、ひらがなとカタカナをマスターします。また毎年、和歌山県のふたつの高校と交換留学も行っています。ダートフォード・グラマースクールの生徒たちは和歌山で10日間ほどホームステイをします。日英両校とも、生徒たちは互いに相手校で授業を受けたり、部活動に参加したり、近郊に旅行したりとプログラムを楽しんでいます。
「さくらネットワークに加盟したことで、さまざまな可能性が開けました。他の教育機関と幅広く交流できるようになり、学者や研究者ともつながることができました」とシンプソン先生は語ります。ジュリアン・メトカーフ校長はこう述べます。「西洋と東洋の言語を並行して学ぶというのはとてもユニークな経験です。より広い視野をもって、自校の生徒たちだけでなく地元の小学校や中学校に対しても、日本や日本語について紹介する活動をこれからも提供していきたいです」
さくらネットワークには取り組むべき課題がいくつかあります。そのうちのひとつは、アフリカの加盟機関を増やすこと。JFは、ケニアをはじめアフリカ各地で日本語教育に携わる先生方と連携・協力し、日本語教育のネットワーク作りを支援しています。2019年には「第1回アフリカ日本語教育会議」がエチオピアで開催され、アフリカ全土13か国から70名が参加しました。また、中米カリブ地域の広域ネットワーク構築も進行中です。JFメキシコ日本文化センターが中心となり、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、ドミニカ共和国など各国の日本語教師が集まるセミナーやシンポジウム、オンライン会議が継続して行われています。
世界中にさくらの花を咲かせるべく、種まきの努力は続きます。
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