2022.10.12

対話

次世代リーダーの育成のために、
日米を結ぶ2つのプログラム

Cohort 5 DC研修

写真は、日米次世代パブリック・インテレクチュアル・ネットワーク事業の第5期生(2018年~2020年)の、米ワシントンD.C.訪問時の集合写真。

国際交流基金は、各国の有識者間の対話を深める事業に注力してきました。日米関係においては、両国の次世代リーダーの育成とネットワーク構築を目指すプログラムが誕生しています。

国際交流基金(JF)では草創期から、世界各国の有識者との対話を促進する事業を続けてきました。ここでは、アメリカとの間でJFが進めてきた有識者間の知的交流を促進するプログラムに焦点をあてたいと思います。

安倍フェローシップ・プログラムの誕生

1980年代後半から1990年代にかけ、貿易摩擦を要因とする対日感情の悪化が、日米関係に暗い影を落としていました。1990年、日米安全保障条約30周年記念の政府特使としてアメリカへ派遣された安倍晋太郎元外務大臣は、貿易摩擦で高まる日米の緊張関係を、相互理解の促進で乗り越えようという思いから、「日米親善交流基金」の創設を提案します。安倍氏の構想は日米双方の首脳を始めとするリーダー層からも強い賛同を得て、翌年、同基金を活動財源とする日米センターJFの中に創設されました。

日米センターは、国際社会が直面する地球規模の課題を解決するためには、日米両国の人々が世界の人々と共に知恵を出しあい、協力していく必要があるという考えから、「日米両国の共同による世界への貢献」及び「日米関係の緊密化」をミッションに掲げ、さまざまな日米間の共同研究、対話・連携事業などを支援すると共に、こうした日米のグローバル・パートナーシップを担う人材育成にも力を入れてきました。その中核事業となったのが、「安倍フェローシップ・プログラム」(安倍フェローシップ)です。これは日米の優れた研究者を対象に、現代の喫緊の地球的な政策課題に関する学際的・国際的な調査研究を支援するプログラムで、発足以来447 名の安倍フェローが生まれ、特に政策研究の分野において国際的に活躍しています。

「安倍フェローシップの誕生は、世界における日本の地位が高まった結果、もたらされたものだと思います。当時、政策的な議論における日本の重要性が増していたのです」と語るのは、ハーバード大学のスーザン・ファー名誉教授です。日米間の知的交流の深化に尽力している先生は1978年にJFの日本研究フェローとして来日しました。また、1994年度の安倍フェローであり、2016年度の国際交流基金賞受賞者でもあります。

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スーザン・ファー(Susan J. Pharr)先生。ハーバード大学の名誉教授で、2021年までエドウィン・O・ライシャワー日本政治学教授。32年間、ハーバード大学で日米関係プログラムを統括。日本及び世界の民主主義の社会的基盤に関する研究を続けています。Photo by Martha Stewart

ファー先生はこう語ります。「1980年代から1990年代にかけて日米が貿易摩擦で緊張関係を迎えた当時、アメリカの日本専門家が日本に関する専門知識や歴史的な背景を語ることの重要性が、日米で再認識されました。安倍フェローシップは、学者の声を政策論議に反映させることを重視したプログラムですが、この政策研究分野は競争が激しく、世界各国がさまざまな奨学金やプログラムをアメリカの研究者に提供しています。その中でも日本は、安倍フェローシップ等を通じて日本専門家や日米関係に従事するリーダーを多数、輩出しており、これは国際交流基金の大きな成功物語と言えると思います」

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JFの各プログラムへの助言を含め、日米を中心とした国際相互理解の増進に長年取り組み、多大な貢献をしたファー教授は、2016年度の国際交流基金賞を受賞しました。

日米関係の未来を担う次世代リーダーたち

時代は下り、2009年にJFとアメリカのマンスフィールド財団が共催する新たなプログラム「日米次世代パブリック・インテレクチュアル・ネットワーク事業(U.S.-Japan Network for the Future」が立ち上がります。アメリカの政策・世論形成に関与することが期待される中堅・若手世代の日本専門家(研究者、実務家)を対象に、2年の間に数回、日米で合宿形式の研修を行い、日米関係のアジェンダについて理解を深め、同時に彼らの間のネットワークを形成することを目的としたプログラムで、第1期から第6期まで84名が参加しています。ファー先生をはじめハーバード大学名誉教授のエズラ・ヴォゲル氏ら錚々たるアドバイザー陣が、アメリカに次世代の知日派リーダーを育成するという使命感にかられてプログラムが開始されました。

プログラム創設の背景を、ファー先生はこう振り返ります。「結果を出さなければというプレッシャーにさらされている、若い学者や研究者を応援したいという思いがありました。また、若い学者が現実に日米間に存在する政策的な諸問題に向きあい、解決策や意見を表明できるように促す目的もありました。設定した目標は3つです。まず、参加者に日米の政策課題をきちんと知ってもらうこと。次に、彼らのキャリア形成を支援し、異なる研究機関に属する参加者同士をネットワーク化して、互いに協力しあえる関係を築くこと。そして、若手研究者たちに今後も日本研究という学術分野に留まって実績を積み重ねてもらい、活躍してもらうことです」

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日米次世代パブリック・インテレクチュアル・ネットワーク事業の第3期生(2014年~2016年)の訪日研修時の集合写真。中央に立つのが、ハーバード大学のファー教授とヴォーゲル名誉教授。ヴォーゲル教授は惜しくも2020年に逝去されました。

ファー先生はまた、こう続けます。「このプログラムができたことで、若い世代の日本研究が再び活性化しています。プログラムの強みは、学者だけでなくシンクタンクやNPOなど、政策にかかわる人を幅広く対象としていることです。輩出したいのは未来のリーダー。過去の参加者の中から、シンクタンクで日本専門家として活躍したり、北米における日本研究を牽引する優秀な研究者、政府の要職に就く人が出始めています」

2016年から2018年、第4期生としてこのプログラムに参加したのがジョシュア・ウォーカー氏。現在、ニューヨークのジャパン・ソサエティの理事長を務めています。1歳から18歳までを北海道で過ごした知日家に、参加の動機を伺いました。「18歳になってアメリカに行った時、大学で改めてアメリカのことを学ぼうと思いました。いつか日米の懸け橋になるような仕事ができたらと思っていましたが、広い世界で仕事がしたいとの気持ちもあり、大学卒業後は日本以外の地域を対象とする米政府関連の仕事に携わりました」

ウォーカー理事長にとって大きな転換点となったのが、2011年の東日本大震災です。「私にとって日本は、1歳から過ごした身近な国、そこにあるのが当たり前の国でした。日本に住む両親の安否を心配したことは言うまでもありませんが、東北の人たちの苦しみを見て、自分は日本のために何も貢献できていないと思いました。そこから少しずつ、日本に気持ちが向かうようになっていきました。グローバルな問題を見る時でも、常に日本と関連させながら物事を考えるようになったのです。その後、このプログラムのことを友人から聞き、応募を決めました。私が最も関心を持ったのは、このプログラムが世界的な視野を持つ人材を求めていたという点です。実際に参加してみると、とにかくアドバイザーの先生方が素晴らしかった。私の人生においてずっと大きな存在だったヴォーゲル先生にお会いできて、長い時間を共にし、深い関係を結べたのは嬉しかったです」

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ジョシュア・ウォーカー(Joshua Walker)博士は、ニューヨークの日米交流団体、ジャパン・ソサエティの理事長兼CEOです。CSPC上級フェロー、コロンビア大学国際公共政策大学院客員准教授、Presidential Leadershipスカラー、三極委員会デイヴィッド・ロックフェラー・フェロー、ミュンヘン安全保障会議ヤングリーダーでもあります。第16回中曽根康弘賞受賞。

ウォーカー理事長はこのプログラムを通じて、日米関係の重要性を痛感したと言います。「ヴォゲル先生やファー先生といった上の世代を継ぐ存在がもっと出てくるべきだと思います。日本には“これからをつなぐアメリカの友人が必要です。同期の参加者とは今も交流があり、みんな、自分たちの世代が仕事をする番だという使命感に燃えています」

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ウォーカー理事長も参加した第4期生(2016年~2018年)の訪日研修時の集合写真。「このプログラムは、質の高い勉強ができることに加えて、日本文化体験と合宿形式ならではの深い議論という、ここでしか得られないものが組みあわされているのです。アドバイザーや参加者との絆は、私にとって生涯の財産です」とウォーカー理事長は話します。

今、世界は再び激動の時代を迎えています。ファー先生はこう語ります。「これほどまでに国際関係が変動している時代はありません。けれど、このような時代だからこそ、国と国との同盟関係は船の錨のような役割を果たすと思います。第二次世界大戦後、日米の交流はさまざまな要素によって、一つひとつレンガを積み重ねるように築かれてきました。その中でも、知的交流が核となり、両国は知的インフラを構築してきました。長い時間をかけて積み上げてきたこの基盤を保持していくことが、私たちが突入しつつある変革の時代を乗り切るために必ず役に立つと思います」

JFはこれからも、日米協力に基づく世界への貢献を目指し、日本とアメリカの明日をつなぐリーダーたちによる、地球規模の課題解決に向けた取り組みを支援していきます。

 

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