2022.10.12

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地域づくりの担い手を応援する地球市民賞で、世界と地域とをつなぐ

フィリピンへの鍵盤ハーモニカ寄贈

写真は、グローバル人財サポート浜松による中古の鍵盤ハーモニカの寄贈プロジェクトの模様。毎年市内の大学生らが100台ほどを浜松市民から集め、フィリピン・ダバオ市に贈って、音楽教育の支援と国際交流を行っています。Photo:©一般社団法人グローバル人財サポート浜松

国際交流基金は、日本各地の国際交流の担い手を応援しています。ここでは顕彰事業「地球市民賞」と、地域国際化の課題に世界の都市が国境を超えて取り組む「インターカルチュラル・シティ」プログラムに着目します。

日本が経済大国としての地位を確立した1980年代。ビジネスや旅行などを通じて海外との交流の機会が増えるにつれ、日本の「国際化」の必要性が叫ばれるようになります。各地で地域主導による国際交流の活動が活発に行われるようになり、地方自治体により続々と国際交流協会や国際交流センターが設置されました。国際交流基金(JF)も、国際交流相談室を設置し、国際交流のノウハウの共有と各地での活動への支援を進めると共に、モデルケースに光をあてる目的から、1985年に「地域交流振興賞」を創設しました。 

その後、1990年に入国管理法が改正され、1993年には技能実習制度が導入されたことから、日本の在住外国人は激増し、各地の国際交流協会の役割も変わってきました。国際親善や国際交流が活動の中心だった1980年代から、外国にルーツをもつ住民を迎えての“内なる国際化”への対応が加わったのです。2004年には地域交流振興賞を「地域交流賞」に改称。さらに、市民一人ひとりが外国とつながる地球市民であるようにとの願いを込めて、「地球市民賞」へと改称しました。

現在、地球市民賞は「文化芸術による地域づくり」「多様な文化の共生」「市民連携・国際相互理解」の分野で目覚ましい活動をしている団体・個人を顕彰しています。活動の先進性と独自性が社会的課題とマッチングできているか、ミッションを率いる人々の情熱が市民を巻き込み、地域に向けて開かれているか、将来にわたり活動のインパクトを継続していけるか、などが評価項目とされ、日本全国のユニークで熱意ある団体が表彰されています。

2021年度には、音楽を通じて福島県、岩手県、長野県など各地の子どもたちを支援し海外と交流する「一般社団法人 エル・システマジャパン」(東京)、南米から来日した日系の子どもたちの教育を支える「学校法人 ムンド・デ・アレグリア学校」(静岡)、東海地域の難民申請者を支援する「特定非営利活動法人 名古屋難民支援室」(愛知)が受賞しました。

地球市民賞受賞を機にはばたく「グローバル人財サポート浜松」

賞の創設から38年、今日までに、北は北海道から南は沖縄まで115の団体が受賞しています。中でも近年、受賞を機に飛躍的な成長を遂げている団体の1つが、多文化共生時代における地域活性化のロールモデルを担う「一般社団法人グローバル人財サポート浜松」(静岡)です。

同団体の受賞は2018年度。新たな在留資格「特定技能」を加えた入管法改正と時を同じくしてのことでした。数多くの外国をルーツにする人々が暮らす静岡県浜松市を拠点に、主に介護業界での外国「人財」の育成を掲げ、独自のカリキュラムによる日本語教育や就労支援を行っています。

企業内日本語教室

グローバル人財サポート浜松が実施する、企業内日本語教室の模様。海外にルーツをもつ技能実習生や特定技能、エンジニアなどに、職場で使える日本語指導を行っています。Photo:©一般社団法人グローバル人財サポート浜松

代表理事の堀永乃さんは、受賞の意義をこう語ります。「浜松市長や地元経済界のリーダーたちも受賞を祝ってくださいました。支援者の輪がさらに広がり、外国人財のイノベーションを浜松から巻き起こすといった機運を、地域ぐるみで醸成できました。中央省庁からヒアリングを受ける機会も増えました。外国人の一人ひとりが地域社会をつくるパートナーであり、彼らが活躍することが当たり前だと、みんなが思う世の中にしていきたいです。外国からの市民が多いということは、浜松の強みにできます。今後確実に必要となる外国人労働者の資格取得等のスキルアップと、受け入れ企業の環境整備、その双方向からわれわれが介入してアプローチすることにより、安定した雇用機会を提供したいのです」

一般社団法人グローバル人財サポート浜松を設立

堀永乃さんは2011年に一般社団法人グローバル人財サポート浜松を設立し、2012年に代表理事に就任しました。文化庁地域日本語教育推進アドバイザー、一般財団法人自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザーとしても活躍。著書に『やさしい日本語とイラストでわかる介護の仕事』(2015年)。2018年度の国際交流基金地球市民賞を受賞。Photo:©一般社団法人グローバル人財サポート浜松

堀さんは受賞を機に地域行政との連携を強めると共に、人財と企業のマッチングにとどまらず、就労後のフォローアップまでを行える仕組みづくりに着手しています。「浜松は日本の縮図と言われています。多文化共生を推し進めている浜松市において、外国人に限らず多様な人々が活躍できるよう、人権とビジネスの観点からも企業の職場環境を整備し、人財活躍システムをつくることで、ゆくゆくは国際的にも評価され、優秀な人財が世界から集まる都市になれたらと考えます」

浜松市も加盟する「インターカルチュラル・シティ」とは?

堀さんたちの受賞の前年となる2017年、浜松市は欧州評議会が進めるプログラム「インターカルチュラル・シティ(ICC」に、アジアの都市で初めて加盟を認められました。ICCとは2008年に発足したプログラムで、移住者やマイノリティがもたらす多様性をまちづくりに活かし、志を同じくする世界の他都市とつながることで、自治体の魅力を向上させていくものです。JFも、欧州評議会と協力して本プログラムに取り組んでいます。

2012年10月に浜松市で実施された「日韓欧多文化共生都市サミット2012 浜松」で、「浜松宣言」を読み上げる浜松市長(中央)。このサミットはJFが浜松市、欧州評議会、一般財団法人自治体国際化協会と共催したものです。

2012年10月に浜松市で実施された「日韓欧多文化共生都市サミット2012 浜松」(JF、浜松市、欧州評議会、財団法人自治体国際化協会の共催)の模様。日本、韓国、欧州3か国から自治体の首長や実務者が参加しました。

移民政策と多文化共生論を専門とし、日本におけるICC研究の第一人者である明治大学の山脇啓造教授は、ICCを「同化主義でも多文化主義でもない第三の道」と評します。「カナダやオーストラリアで一定の成果を上げた多文化主義ですが、ヨーロッパでは、移民の集住地域が生まれ、社会が分断する政策として批判が高まり、見直しが進みました。ヨーロッパの都市がICCを第三の道とするのは、多様性を尊重しつつ、互いに関わりあい混ざるという意味での“インターアクション”がキーワードだからです。日本が目指す多文化共生も、そうした考え方を取り入れると同時に、日本の経験を世界に発信する価値があると思います」

教育や医療など、文化背景の異なる市民が共に生きるコミュニティが直面する諸問題に取り組むと共に、多様性がもたらす活力や革新を活かしたまちづくりを進める――というのがICCの基本理念です。山脇教授は「多様性を厄介なものとせず、うまく活かして都市の活力にする。ICCのそんな視点は、JFが今後も取り組むにふさわしいテーマではないでしょうか」と問いかけます。それは、グローバル人財サポート浜松の堀さんが思い描く「外国人財のイノベーション」とも重なる未来像。国際相互理解・文化交流から多文化共生による豊かな社会の実現まで、JFは地域の活性化・地方創生を応援しています。

 

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