2022.11.17
その他日本の優れた舞台芸術を、オンラインで世界の隅々に配信
国際交流基金では日本の舞台公演に接する機会を求める世界の人々に向けて、優れた公演をオンラインで配信しています。その本数は、国際交流基金が制作した作品を含め90以上に上ります。
コロナ禍で海外との行き来が制限され、文化交流活動にも大きな制約が生じました。それでも、つながることはできるはず。国際交流基金(JF)では、以前から日本語学習プラットフォーム「JFにほんごeラーニング みなと」などオンライン事業に力を入れていましたが、2020年、コロナ禍の世界的拡大の初期よりその活動を加速させ、さまざまなオンライン事業を積み重ねてきました。こうしてアーカイブ視聴ができるコンテンツが蓄積されてきたことから、ポータルサイト「JF digital collection」が立ち上がりました。カテゴリーや言語による検索機能により、ユーザーの関心に応じて見たいものを選択し、視聴することができるサイトです。
JFのオンラインコンテンツ中、特に視聴数が多いのが、2021年から実施している「STAGE BEYOND BORDERS-Selection of Japanese performances-」(SBB)です。日本の優れた舞台公演作品をオンラインで配信する大規模プロジェクトで、現代演劇、ダンス・パフォーマンス、伝統芸能などジャンルはさまざま、公演映像のほか特別インタビューも無料で視聴できます。台詞のあるすべての作品に多言語の字幕が付けられており、これらの映像には、このプロジェクトのためにJFが新たに撮り下ろしたものも多数含まれています。
国境を超えて幅広く、世界中の人々に届けたい
コロナ禍で日本の舞台芸術の海外公演が困難になる中でも、日本の舞台芸術の魅力を世界中の人々に届けたい。そのために何ができるかと考え、たどり着いたのが、映像配信でした。追求したのは、オンラインならではの利点です。通常の海外派遣公演は大都市での開催が多く、実施できる公演数も限られています。ある都市で公演を行うと、次に同じ都市で開催されるのはその何年か後。また、地方都市での開催にも限りがあるのが現状でした。
これがオンライン配信であれば、場所や時間を問わず、JFが発信する公演映像を鑑賞してもらうことができます。多くの人々にお届けし、無料で楽しんでもらうために、プラットフォームにはYouTubeを選び、5か国語以上の多言語字幕を付けました。世界中の人々がアクセスしやすく、他のSNSツールとも連携しやすい点が決め手でした。
配信開始から約1年、SBBは2022年5月の時点で累計視聴国が111か国・地域、合計1000万ビューを達成しました。中でも2.5次元ミュージカル『ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣 2020 ~SOGA~』や、『京舞–都に伝わる雅な舞–』『落語 –ゼロから世界を生みだす–』といった「伝統芸能シリーズ」などは、多くの方に視聴されています。
配信作品には、『刀剣乱舞』や『薄い桃色のかたまり』『TWO – in transit Hara Museum』『コスモス』『赤鬼』など、緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)実行委員会との共催によるものも含まれます。EPADは、権利処理をサポートすることで舞台映像配信のハードルを下げ、舞台芸術団体の持続的な収益基盤の確保に寄与する活動で、コロナ禍をきっかけに開始されました。EPAD実行委員会との共催は、バラエティに富む充実したコンテンツを用意する上で、大きな力となっています。
『刀剣乱舞』や『京舞』に、世界中から熱いコメントが
JFが自ら制作を手がけた作品としては、伝統芸能シリーズがあります。「能」「狂言」「文楽」「歌舞伎」など各芸能のテーマごとに、実際の舞台を見たことがない人や日本文化になじみのない人にもわかりやすいよう、出演者による解説映像も交えた点が好評を博しています。
『京舞』も伝統芸能シリーズの1本です。京舞は、日本舞踊の中でも200年以上前から京都を中心に継承されている特別な舞です。作品に登場する京舞井上流・次代後継者の井上安寿子さんは、こう話します。「京舞は普通の日本舞踊とは違い、どちらかといえば振りも少なく地味なところもありますので、映像でどれくらい“生”の雰囲気を味わっていただけるのか、不安もありました。でも、普通の視点とは違うところまでご覧になっていただけることが映像の良いところだとも思いました」
井上さんのお話を裏付けるように『京舞』には海外の視聴者から、次のような感想が寄せられています。「映像の途中、床板の一部が擦り切れていたのに目がいきました。きっとたくさんの人がここで踊って、”ソックス”で床板が擦り切れたのだと思う。伝統を受け継ぐということは本当に大変なことなのでしょうね……」
井上さんは、字幕にそのような説明は出ていないにもかかわらず、そこまで目を向けて真剣に見ている海外の観客がいるということに驚いたといいます。「映像に出てくるお稽古場は、私たちがとても大切にしている場所です。細かいところまで注目していただいていることに大変感動しました。また、見た目だけではなく、精神も美しいとコメントしてくださる方もいて、それも嬉しかったですね」
JF制作によるシリーズ以外の作品も、幅広い層が楽しめる演目の選定や字幕の見やすい配置など、さまざまな工夫が凝らされています。どの作品にも世界中から多くのコメントが寄せられています。その一部をご紹介します。
『刀剣乱舞』:≪私は日本語を勉強している外国からの刀ミュファンで、配信も買って、DVDも持って、この作品を何回も見た。でも今日は母国語の字幕を見てやっとセリフの意味100%わかりました。とっても嬉しいいいいいいです! 意味がわかると、難しい語彙が聞き取れました。日本語の勉強になりました。日本の歴史と文化への理解を深めました。ありがとうございます。≫(原文の日本語ママ)
『落語』:≪落語を楽しみたいと思っていましたが、言葉の壁があり理解できませんでした。今回、体験できて、しかも、その始まりを知ることができて本当によかったです。漫才のようなテンポの良いコメディが多い中、落語のようなゆったりとしたストーリーのあるコメディは新鮮です。≫(原文は英語)
SBBには、続々と配信作品が追加されています。コロナ禍が加速させたオンラインコンテンツへのニーズが衰えることはないでしょう。しかし、演劇、音楽、舞踊などの芸能を劇場や、生で味わう経験は非常に魅力的なものです。その場でしか味わえないリアルな芸術体験と、より手軽に、そして繰り返し味わえるオンラインという芸術体験の双方を、JFは今後も世界中に届けていきます。
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