2022.10.12

言語

アジアで日本語を学ぶ中高校生たちに、
生きた言葉と文化を届ける
「日本語パートナーズ」

日本語教育が行われているアジアの国々に日本人を派遣し、現地校の授業をサポートする「日本語パートナーズ」。2014年から始まった新たな国際交流の形は、コロナ禍も乗り越えて続いています。

東南アジアを中心としたアジアの中学・高校等に派遣され、日本語の授業のアシスタントや日本文化の紹介役を担う「日本語パートナーズ」の存在をご存じですか? 国際交流基金(JF)では、2014年から2021年までの8年間に、インドネシア・カンボジア・シンガポール・タイ・台湾・中国・フィリピン・ブルネイ・ベトナム・マレーシア・ミャンマー・ラオスの12の国と地域に約2500名の日本語パートナーズを派遣しました。2022年もまた多くの日本語パートナーズが、アジアの国々に旅立つ予定です。

多様な経歴をもつ日本語パートナーズは、等身大の日本人の姿を伝えるのにぴったりの存在。派遣先の地域の人々にとっては初めて出会う日本人となることも。

日本語パートナーズは、派遣先によって一部要件が異なりますが、①満20歳から69歳で日本国籍を有すること、②日常英会話ができること、③派遣前研修(約4週間)の全日程に参加できることなどを要件として広く一般から公募され、日本語教育の知識や経験は求められません。書類や面接による選考を通過すると、派遣前研修を経て、1年未満の期間派遣されます。

なぜ、日本語教育の専門家ではない日本語パートナーズを派遣するのでしょうか。背景としては、もともとアジア地域では第2外国語教育が盛んで、日本語も一定の人気があったことに加え、2000年代に入り、ポップカルチャーなどを通じて日本語に関心を持つ若者がさらに増えたことや、日系企業の進出が進んだことなどが挙げられます。

こうして、中等教育レベルでも日本語教育が盛んになりましたが、急速な拡大に対し、教師の数や、日本人と直に接する機会は、現在でも、追いついていません。

JFでは、以前から日本語教育の専門家を各国に派遣し日本語教育機関への支援を行ってきましたが、さらに広範囲に、より身近に、日本語学習のパートナーとなる日本人が教育現場に居ることが、各国の日本語を学ぶ生徒、教師の応援となっているのです。

生身の日本人が、 現地へ赴くことの意味

「日本語パートナーズ事業は、日本語や日本文化への理解を深めるにあたり、非常に戦略的で素晴らしい手法だと感じました」と語るのは、2014年の本事業開始当時、インドネシア共和国教育文化省の中等教育総局長を務め、責任者として事業実施のための協定書に署名したアフマド・ジャジディ氏。「言葉や文化は人から人、口から口へと伝えるのが大事です。日本語パートナーズとして、生身の日本人がインドネシアの高校に派遣され、言葉だけにとどまらない日本人らしさを伝えてくださることに期待しました」

アフマド・ジャジディ(Achmad Jazidie)氏。現在は、インドネシアのナフダトゥール・ウラマ大学スラバヤ校学長を務めています。「事業を今後も継続し、もっと多くの日本語パートナーズを派遣してほしい」と語ります。

1980~90年代にかけて日本への留学経験があるジャジディ氏は、未来の働き手である自国の若者たちへの日本語教育の必要性を強く感じていました。また、インドネシアは国土が広く島が多いため、地域による教育格差の問題を抱えています。その点、地方へも派遣される日本語パートナーズは、とても貴重な存在なのです。

日本語パートナーズのミッションには、現地の言語を習得し、文化を理解して、その経験を広く発信することも含まれています。「わが国に多いイスラム教徒は、怖いとか恐ろしいという色眼鏡で見られることが少なくありません。日本語パートナーズ事業は、日本人にとっても、そのような偏見を取り除き、本当のインドネシアを知っていただくための良い仕組みだと思います」とジャジディ氏は話します。

ジャジディ氏の言葉通り、日本語パートナーズは多くの派遣先で、旅行とはまったく異なる文化交流体験を重ねています。2019年7月から約8か月間、フィリピンの首都マニラに派遣された玉置千郁さんもその1人です。派遣前は不動産関係の仕事をしていた玉置さん。旅行でフィリピンを訪れたことはありましたが、「現地の高校に入り込んで生活する中で、その土地の暮らしや、家族・友人を大切にするフィリピン人の国民性など、今まで知りえなかった多くのことを学びました」と語ります。学校では日本語パートナーズの活動があくまでもサポート役であることを念頭に、日本語の発音練習や板書、文化紹介を担当し、受け入れ担当の先生が授業をしやすいよう心がけました。

フィリピンの首都マニラの貧困地域であるトンド地区に派遣された玉置さん。週4日12コマの日本語授業に加わり、生徒たちが楽しみながら日本語や日本文化を学べるよう心を砕きました。現地で知り合った人々とは、今でもSNSでメッセージのやり取りをする仲だそう。

双方向の異文化理解がもたらす効能とは?

「派遣後は、私自身ひと皮むけたように思います。現地では時間通りに物事が進まなかったり、突然何かを任されたりすることがよくあったので、物事に臨機応変に対応できるようになりましたし、小さいことを気にしなくなりました」と玉置さん。彼女はいま特定技能制度関連のサポート会社に勤め、技能実習生として来日するフィリピン人たちの指導にあたっています。「彼らとスムーズに会話できるのも、どういうふうに日本語や日本文化を伝えれば良いかがわかるのも、日本語パートナーズを経験し、フィリピン人やフィリピン文化についての理解を深めたおかげです。今後はその恩返しをしたいと思っています」

アジア各地の日本語教育機関そして日本語学習者からの、ますます膨らむ期待とニーズに応えるため、日本語パートナーズ事業は今なお継続されています。オンラインで容易に世界とつながることができる時代だからこそ、日本語パートナーズのような人と人とのリアルなつながりの価値はかえって高まっているのかもしれません。

 

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