2022.10.12

文化

ドラマ、アニメ、ドキュメンタリー……
テレビ番組を通じて世界に広まる日本の心

花嫁のれん

『花嫁のれん 番外編』として、6人の外国人が仲居修業に挑むドキュメンタリーを東海テレビと国際交流基金が共同制作。100名を超える応募者の中から選ばれたアメリカ・メキシコ・スペイン・ウズベキスタン・フィリピン・台湾出身の女性たちが、時に衝突しながらも絆を深めていきます。

日本ファンを増やすきっかけとして、大きな影響力をもつテレビ。海外のテレビ局に番組を提供する国際交流基金の事業は、日本と世界の人々の心の距離を縮める役割を果たしています。

国際交流基金(JF)では、日本のコンテンツへのアクセスが少なく、視聴機会が限られる国・地域を中心に、日本のテレビ番組を紹介する事業を行ってきました。広い範囲に効果的に日本文化を紹介する取り組みとして、40年近くにわたり実施され、170以上の国・地域に延べ5000本以上の番組が提供されています。それまで日本文化に馴染みが薄かった国々でも、テレビ番組を通じて、日本ファンが増えています。

2021年にザンビアの国営放送ZNBCで行われた、水内大使からカサンダメディア情報大臣へのテレビ番組の引渡式の様子。提供:在ザンビア日本国大使館

世界中で親しまれる『おしん』、そして『花嫁のれん』

世界中で親しまれている代表的な番組が『おしん』です。JFが多くの言語への翻訳に協力し、これまでに約70か国に提供されてきました。東北の農村に生まれ育ち、幾多の困難に見舞われながらもひたむきに生きる主人公の姿は世界中で共感を呼び、「オシンドローム」と呼ばれる社会現象を引き起こしました。脚本を担当した橋田壽賀子さんが2021年に亡くなった際は、海外からもその死を悼む声が数多く届き、改めてその浸透ぶりと根強い人気が示されました。

近年でも、JFが提供した番組の中から海外でのヒット作が生まれています。2010年に日本で放送開始した昼ドラ『花嫁のれん』シリーズもそのひとつ。老舗旅館を舞台に嫁姑バトルが展開されるこのドラマは、約20の国と地域で放送され人気を博しています。「嫁姑問題がテーマのドラマに、海外でもこんなに反響があるとは思っていませんでした。言語や文化を超えた共通の関心事なのかもしれませんね」と、制作を担当した東海テレビの市野直親東京制作部長は振り返ります。「優しさや思いやりといった部分に共感されるのではないでしょうか。人が人を大切にする、という普遍的な感情は、世界に伝わっていくものなのだと思います。また、JFによる番組提供で、放送を想定していなかった国でも視聴されているのを知り、どんな人がどのような場で番組を見ているのか、興味がかきたてられますね。ドラマのプロデューサーとして、やりがいを感じます」。海外での高い支持を受けて、2021年、東海テレビとJFは共同で、ドラマのモチーフとなった旅館で外国人女性6名が仲居修業に挑むドキュメンタリー『日本のおもてなしに挑戦~ドラマ「花嫁のれん」番外編~』を制作しました。

老舗旅館を舞台に、元キャリアウーマンの嫁と、伝統を重んじる姑のバトルを描くドラマ『花嫁のれん』。日本では、2010年から2015年の間に全4シリーズ205話が放送されました。

医療ドラマでも、ヒット作が生まれています。この事業で提供した沢村一樹氏主演の『DOCTORS~最強の名医~』は、カザフスタンで一大ブームになりました。「医療のシステムや環境も違う中で作品が受け入れられた事に驚きはありますが、スタッフ共々大切に育ててきた作品なので大変光栄に思います」と、沢村氏も海外の視聴の反応に手応えを感じているそうです。「私が演じる相良先生と高嶋政伸さん演じる森山先生とのコミカルなやり取りのなか、医師らが患者さんに正面から真剣に向き合う姿に共感と希望をおぼえていただけたのなら嬉しいです」

『DOCTORS~最強の名医~』のカザフスタンでの人気は、同国の雑誌社が、数ページにわたる特集を組んだほど。

『DOCTORS~最強の名医~』主演の沢村一樹氏。「世界の中での日本の立ち位置が変わってきている昨今、私たち日本人が何を大切にして暮らしていくべきなのか、日本のドラマに対する海外の方々の反応から学ぶべきものが沢山あるのかなと感じました」

JFが提供した番組が、意外な効果をもたらした例もあります。2006年から2007年、JFは戦後復興期にあったイラクに、現地で絶大な人気を持つスポーツであるサッカーを題材にしたアニメ『キャプテン翼』のアラビア語版を、現地テレビ放送局に提供しました。放送されたのは、主人公の大空翼がプロサッカー選手となり、世界のトップ選手たちと競い合いながら友情をはぐくむ52話。それまでは衛星放送のみでしたが、当時のイラクで衛星放送を視聴できる家庭はごく僅か。地上波放送の実現で、より多くの視聴者に、とりわけ中東地域の未来を担う子どもたちに夢と希望を与えることができました。2009年までイラク・サマワに人道復興支援のため派遣されていた日本の自衛隊は、『キャプテン翼』の大きなシールでデコレーションした給水車で地域内を回りました。アニメ番組が日本の顔となり、現地での活動の円滑化にも一役買うこととなったのです。

現地のテレビ局が、日本文化紹介の窓口となる

海外のテレビ局では、JFの番組紹介事業が大いに役立っているようです。メキシコの全国放送局・Canal22では、全放送の約7%にあたる番組が、JFがサポートする日本のコンテンツになっています。同社のディレクター、エドゥアルド・ナバ氏は、「特に人気があるのは、『カーネーション』や『ごちそうさん』などの連続テレビ小説や、京都の風景など日本らしさが随所に出てくるドキュメンタリーですね。アニメ番組は子どもに限らず、大人にも非常に人気があります。大人も見られるよう、アニメの放送時間帯は遅めにしています」と話します。「風景・自然・建築物・服装・食習慣・音楽など、メキシコと異なる日本の文化は、私たちにとって非常に魅力的に映ります。連続テレビ小説を見ると、日本の一般家庭の生活や、普段の食事の内容がよくわかります。メキシコの視聴者は遠く離れた日本を訪ねる機会がなかなかありませんから、私たちテレビ局が、日本文化紹介の窓口になっていることに責任と嬉しさを感じています」

テレビを通じて同じ物語に感動すること、あるいは異なった文化に触れることは、遠く離れた国々と日本の距離をぐっと縮めてくれます。日本のテレビ番組は、今後も日本と世界の交流において、大きな役割を担っていくことでしょう。

 

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